第8章

高橋隆は銀座で最も高価なバーに立ち、グラスの中のウィスキーを一口で飲み干した。鏡に映る男は、半年前の華々しいIT業界の寵児とはまるで別人だった。無精髭がかつての精悍な顎を覆い、目の下の青黒い隈がここ最近の彼の退廃を物語っている。

「もう一杯、ロックで」

彼はバーテンダーに手を挙げた。声は嗄れている。

隣の客が彼をちらりと見て、声を潜めた。

「あれ、高橋家の息子じゃないか? 立ち上げた会社が完全に潰れたって聞いたぞ」

「ああ、彼だ」

もう一人が頷く。

「もっと悲惨なのは、彼の秘書だった女、名前は何だったかな? 中島だっけ? 会社の最後の資金を根こそぎ持ち逃げしたらしい」

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